「みくる」


ぼうっとしていたか、沈んだ顔をしていたんだろう。

堂くんがぐしゃりとわたしの頭をなでた。



なるべくわたしの名前を呼ぶように努力しているんだと思う。


『お前』とか『おい』とかって呼ばれる回数がちょっとだけ減ったように感じた。


べつに堂くんに『お前』って呼ばれるのも嫌いじゃないんだけど、やっぱり名前を呼ばれたときの嬉しさは桁違いだった。



わたしを呼んだ堂くんが、(あっさり!)手を動かしてマフィンをひとつ取った。


プレーン味のそれを、わたしの口に近づけてくる。



食べろってこと?


おそるおそる堂くんの手からマフィンを食べる。


食べてわかったことだけど、それはくるみだった。




「プレーンじゃなかったんだ……」

「これと同じなんじゃねーの」

「え?」

「見た目と中身は違うってこと。自分が思ってるほど周りはお前のこと理解してないし、言わなかったら本当の自分もずっと知られねーままだろ」




わたしが食べたことによってマフィンの一部が崩れている。

そこからはくるみが見えていた。