それだけのことが、ひどくもどかしい。
心臓がふわっと浮くような感覚に、思わずため息を吐いた。
こいつの言葉の真意がつかめなかった。
もうすこしで呑まれてしまいそうになった自分に待ったをかける。
相手は病人だ。
熱にうかされている。
理性が効いているあいだに出ていこうとしたら
『いかないで』
子どもが駄々をこねるような言い方で引き留められた。
起きあがろうとするから、戻るしかなかった。
……いや。
本当は自分が一緒にいたかっただけかもしれない。
一緒にいて落ち着くのは俺も同じだった。
どこにいても味わえないような安らぎを、こいつといるときは感じられる。
「……から」
みくるがなにかを呟いていた。
静かに顔を寄せる。
「どう、くんは…ひとなんか…ころしてないから……」
「当たり前だろ、殺してねーよ」
なんの夢見てんだ。