ゆるりと棗くんを見あげる。

一段下に座っていても、棗くんはわたしよりも目線が高い。



「放課後、用事があって図書室に行ったんだけどね」


こちらを見てふっと表情をゆるめた棗くん。



「堂、ずっと起きてた」

「え、うそ……」

「嘘じゃない」



堂くんが起きてることなんて、滅多にない。

ひとりでいるときはなおさらだ。


だから図書室の宗教画ってあだ名もつけられたわけで。


起きている堂くんが放課後になっても図書室にいることはほぼない、のに。



「起きて外見てた。悩んでるとき以外、ぼんやり空見あげたりしないでしょ。人って」


棗くんはびっくりしてなにも言えないわたしにまっすぐ目を合わせてくる。

森林のように深い色をした瞳から、わたしは目を逸らせなかった。





「向こうもまだ未練あるんじゃねーの。なに言われたか知んないけどさ、堂はそのことを後悔してるんじゃないの?」