わずかにかがんだ彼が、真剣な表情で続けた。


「俺が怖いですか?」


 いつも物腰柔らかで紳士的で、剣術の特訓も嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれる。お仕事もできて、強くて頼りがいのある、スマートな歳上の男の人。

 暗躍して、何を考えているのか教えてくれないときもあるけど、それも全て私を守るためだとわかっている。

 私に見せてきたものが彼のほんの一部で、隠し事がたくさんあっても構わない。


「怖くありません。綺麗じゃなくても、嘘をつかれていたとしても、私は、どんなハーランツさんでも受け止めます」


 これが言葉にできる精一杯だ。

 もっとハーランツさんを知ってみたい。無邪気にそう思うのは、悪いことなの?


「聖女様には敵いませんね」


 やっといつもの微笑を浮かべた彼が、なぜか普段より素に近く感じる。

 初めて感じた胸の高鳴りの理由を知らぬまま、ふたりの関係が少しだけ変化しつつあることだけは実感していた。