「どんなときも平常心を保っていたつもりなのに、闘技場であなたが押し倒されたとき、どうしようもなく心が乱れました」


 キスマークをなぞられて、かすかに痛みを感じる。


「こうして欲のまま手を伸ばしてしまわないように大切に距離をとってきたのに、あなたが無遠慮に触られるのが許せなくて」


 彼は自分がどんな顔をしてそのセリフを吐いているのかわかっているのかしら。

 涼しい顔の下に、こんな熱を持っていたなんて知らない。目が合うだけで力が抜けて、思考がとろけてしまいそうになる。

 その独占欲は、さらってきた目的を果たすために必要だから? それとも、一番の愛弟子だから?

 それ以外に思い当たる感情に名前をつけそうになって、ひどく動揺した。

 ビジネスパートナーだと割り切っていたのに、それ以上は望まないはずなのに。特別な存在だと勘違いをしそうになるのは私だけ?

 彼は、ひとつだけ開いていた私のシャツのボタンを閉めた。頭の上に置かれた大きな手が、子どもや子猫を相手するときとは違う、温かく優しい手つきでなでる。


「綺麗なところだけ見て欲しいのに、たまに独占したくてたまらなくなる」