御者役をしていたもうひとりの騎士と話した使者は、そう伝えて馬車から降りていく。
土砂崩れ? たしかに、辺りは切り立った山なので、悪天候で道が通れなくなってもおかしくはない。
「わかりました。おふたりも気をつけてくださいね」
返事を聞いた使者達は、ぎこちなく頭を下げて馬車から遠ざかっていった。
彼らの背中が見えなくなっても、外は雨が止む気配がない。
困ったわ。ここで立ち往生してしまうなら、一度サハナ国へ戻って、道が復旧するのを待った方が賢明ではないかしら。
いつまで経っても戻って来ない彼らの安否が心配になった次の瞬間、外からただならぬ鳴き声が聞こえてきた。
「ヒヒーン! ブルルッ!」
馬車を引いているはずの馬の声だ。何かに怯える鳴き声に異変を感じ、窓から外を覗く。
すると、視界に飛び込んできたのは獰猛な獣の鋭い眼光だった。
「ひっ!」
恐ろしい光景に息が止まる。
獣は数匹の群れらしく、縄張りに入り込んだ餌を狙いに来たと確信した。



