そのとき、口の前に焼き立てのパンを差し出された。つい頬張った私に、柔らかい声が届く。
「可愛い人にはパンをあげましょう。聖女様の真面目で素直なところが、とても愛らしいですよ」
「もごっ、けほっ」
動揺する様子に目を細めて、餌付けに成功した彼は食器を片付けながら立ち上がる。
また上手くはぐらかされてしまった。結局、あの人の心には近づけないままだ。
「そうそう。聖女様にお伝えしたい件があったのをすっかり忘れていました」
首を傾げると、思いもよらぬ発言が飛んでくる。
「来週、城で騎士団の武闘会が開かれます。聖女様には、なんとかトーナメントの優勝まで勝ち進んでいただきたいのです」
なんとも唐突なお願いだ。もちろん、武力を競う大会とは無縁の人生だった。
そんな私が屈強な上官達を倒してトーナメントを勝ち進むなんて、想像がつかない。
「一体、何の目的で開かれるのですか?」
「ずばり、ザヴァヌ王の公務の護衛につける騎士を選りすぐるためです。騎士全員が六つのブロックに分けられて、それぞれの優勝者が護衛につくという流れになります」



