悪魔の微笑だ。
下手にでられているはずなのに、一向に優位に立てている気がしない。
「い、いえ。なにも」
しどろもどろに答える私に、ハーランツさんはわずかに目を細めた。
「いい子ですね」
頭を撫でられ、すぐに体が離れていく。まるで何事もなかったかのような空気がふたりの間に流れた。
彼には、私の知らない秘密がある。
お互いビジネスパートナーだからといって、無意識に深く踏み込まないでいた。
子どもの命を守って逃がしたのは、私を助けてくれたのと同じ理由なのかしら? 単なる慈悲には見えなかった。
悪い人ではないと信じたいからこそ、彼を知りたい。
そう思ってしまうのは、おかしいこと?
「部屋に帰りましょう。夜は冷えますから」
一瞬垣間見えた危険な一面は、穏やかな口調に隠された。視線を奪う気だるげな色気と闇をほのかに残した微笑が、地下牢のランプに照らされる。
私の手から剣を抜きとり、前を歩いていく背中が、やけに遠く感じたのだった。


