「安心しろ、追っ手は来ない。痛むところはないか?」
低く柔らかな声がした。ひどく聞き覚えがある。
「すみません。まさか、捕まるとは思わなくて」
「王の別邸に忍び込んだそうだな。あまり危険な真似はするなよ。そういうのは俺の仕事なんだ」
ほの暗いランプに照らされた横顔は、ハーランツさんだ。スッと通った鼻筋と整った顔立ち、青い瞳は間違いない。
なぜ、彼がここに?
石の柱に身を隠し、様子をうかがう。
牢の格子越しに少年と話している姿はいつもの柔和な彼ではなかった。敬語を取り払い、凛々しくも危険なオーラをまとっている。
「裏庭に上がれば、城下町に通じている。この時間は郊外への列車もないから、都市の外れに馬車を手配した。お前はそれに乗って帰りなさい」
「そんな。ハーランツ様にご迷惑はかけられません」
「大丈夫だ。俺が直々に処刑したことにしておく。見張りは外で伸びているからな」
ドクンドクンと心臓が脈打つ。
ハーランツさんはあの少年と知り合いだったんだ。逃がすために手助けをしたの?


