恐怖が胸に込み上げたとき、自然に肩を抱かれた。腕で私を引き寄せたのはハーランツさんだ。
「ハーランツさん、どうしてここに?」
「あなたの帰りが遅いので、迎えに来たんですよ。ちょうど騒がしかったものですから、何かあったのかと思って」
彼は静かに耳打ちする。
「安心してください。ザヴァヌ王は聖女様の外見を知りません。言霊の魔力に気づかれなければ、バレないでしょう」
良かった。見つかったとしても、すぐに殺される心配はなさそうだ。
低く品のある声が体に染み渡ると同時に、こわばった体が楽になる。
そのとき、ザヴァヌ王の前に座り込むシルエットが視界に入った。
華奢な体格だが、骨張った手と喉仏から男性であることがうかがえた。歳は十代前半くらいで、鋭くザヴァヌ王を睨みつけている。
「ありゃあ使用人じゃないな。おおかた、密偵か盗人だ」
野次馬達が腕を組んでつぶやく。
あんな幼い子どもが、スパイ容疑で捕まったの? たったひとりで盗みに入ったのだとしても、牢に入れるなんてあんまりだ。
隣を見上げると、ハーランツさんは真剣な顔つきで渦中を眺めていた。
青い瞳の奥が揺らめいた気がしたものの、すぐにポーカーフェイスに戻る。
連れていかれる少年の背中に、なぜか胸がざわめいて落ち着かなかった。



