団長が低く呼び止めた。

 ハーランツさんは私を抱き上げたまま視線を向ける。


異端(ジェンティーレ)のお前は小隊を持たないだろう。監督する寮もないのに、どうやってそいつの寝床を用意するつもりだ」

「俺の自室を分け与えますよ。ひとりで使うには広すぎますから」


 一歩も譲らず言い返した彼は、そのままスタスタと歩き出した。

 異端ってどういう意味だろう?

 やりとりはわからないけれど、自分がハーランツさんの側にいることが正式に許されたというのは理解できた。


「あの、お姫様抱っこだと目立ちませんか? 肩に抱えたり、背負ったりしたほうが良いのでは」

「ははっ。聖女様がご所望ならそうしますけど、おそらく子猫を拾ったようにしか見えていませんよ」

「またからかっていますね?」


 そんな軽口を交わした日、私はヨルゴード国の騎士として認められた。

 指導教官として名乗りを上げたハーランツさんの下に配属され、ついに、下っ端二等兵の成り上がり劇の幕が上がったのである。