麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない



 先ほどから自由奔放な茶髪の騎士が、勢いよく席を立った。団長は渋い顔をして額に手を当てている。

 騎士達は私が言霊の魔力を利用していると気づかないため、次々と仲間が少年に敗れていくのが面白いようだ。

 最終試験は、なぜか上級騎士達との腕相撲大会と化していた。


「うわぁ、負けた!」

「なんだこの子どもは! どこにこんな馬鹿力がある?」


 心の中でごめんなさいと謝りながら、屈強な男達を倒し続ける。

 やがて、優雅に対戦席へとやってきたのはハーランツさんだ。

 つい、すがりつくように両手で握手をすると、いつも通りの微笑が浮かぶ。


「両手はルール違反ですが、ハンデをあげてもいいですよ」

「はっ! ごめんなさい」


 機転をきかせて誤魔化した彼は、優しく手を組んだ。

ハーランツさんは他の騎士とは違う。仲間を思い通りに操ることはしたくない。暗示はかけなくても平気よね。


「始め!」


 彼はこちらの出方をうかがっている。一応、実力で勝とうとするものの、びくともしない。

 その時、ハーランツさんが気まぐれに腕に力を入れた。


「えっ! ま、待って! くぅっ……」