「構え」
上段の団長のかけ声に合わせ、素直に彼の手を組んで肘をつけた。
一同が見守る中、聞き逃すほどの声で暗示をかける。
「“潔く負けなさい”」
大柄な男性の顔つきが変わった瞬間、団長の声が響く。
「始め!」
勝負は一瞬。ダン!と勢いよく手の甲が机についた。
その場にいた全員が状況が掴めず、目を見開いている。
勝者は私。必ず勝つと信じて疑われなかった騎士が、自分よりも遥かに小さな少年に負けたのだ。
「ぶはっ! あっははは! 自分でふっかけておいて、瞬殺じゃねぇか! 何が起きたかわからなかったぜ」
茶髪の男性がゲラゲラ笑い転げている。他の騎士達も困惑の後、楽しそうに肩を震わせていた。
「し、信じられない。今、まったく手に力が入らなかったんだ。どうなっている?」
手のひらを握ったり開いたりする大柄な男性は、自分の敗北に衝撃を隠せない。
「よし、次は俺だ! このイグニス様が新人を華麗に負かしてやる」



