笑顔がひきつる。苦し紛れに出た名前は、全くのデタラメだ。そんな国はない。
「ああ、サウナ国は最近独立したばかりの小国ですね。人口は千人にも満たないけれど、もとは観光資源が豊富なカイロワ領地だったとか。イグニス、あなたは数年前、カイロワ国に旅行へ行っていませんでしたか?」
話を振ったのはハーランツさんだ。スラスラと妙に本当っぽい嘘が出てくるものだから、逆に感心する。
イグニスと呼ばれた茶髪の男性も、明るいトーンで答えた。
「おー、たしかにカイロワは行ったな。あの国は美人が多くて飯もうまい」
「サウナ地区にも寄って、露店で南国のフルーツを買い込み、地元の女性をナンパしていたと聞きましたよ」
「あー、そうだっけか? 身に覚えがありすぎて忘れたな」
すごい。仲間の性格を把握した上で、うまく誤魔化せそうな人に話題を振ったんだ。
会話の流れで疑いが晴れたのか、何事もなく次の質問へと移る。
続いて問いかけてきたのは筋骨隆々な大柄の男性だった。



