麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない



 するとそのとき、聞き慣れた低い声が部屋に響いた。


「今年は特例で他国からのヘッドハンティング枠を作ったそうですよ。ほら、資料によると、ヨルゴードの戸籍登録が空欄でしょう? 彼は地元の騎士団での実務経験が評価されて、実技が免除になったようです。見覚えがなくて当然です」


 面接官達が一斉に声の主を向く。

 視界に映ったのは、優雅に長い足を持て余して組んでいる黒髪の男性だった。ダイヤモンドが埋め込まれた腕章をつけた若い騎士は、他でもないハーランツさんである。

 ああっ、あなたも面接官だったんですか!

 顔見知りの存在に、急に肩の力が抜ける。

 円卓の席に腰掛けているため階級を察することはできないが、彼も実力を認められた上級騎士のひとりであるらしい。

 つい、キラキラした目でフォローの感謝を伝えると、その視線に気付いた彼はわずかに口角を上げた。

 人差し指を「しー」と口元に添える仕草に、心臓が鳴る。“見過ぎです”と唇の動きで釘を刺されて、慌てて視線を逸らした。