「男装するのは初めてですが、どうですか? 私、騎士に憧れた青年にちゃんと見えます?」
「はい。とても凛々しくてカッコいいですよ。でも、一人称には気をつけてくださいね、アルティア」
「はっ! そうでした」
ぼく、ボク、僕……と頭の中で念を唱える。
少しでもボロが出たらおしまいだ。騎士として認められる前に、女性であるとバレてしまってはスタートラインにも立てない。
そのとき、大きな手が頭を撫でた。髪から頬へ下りる指がひどく優しい。
「大丈夫ですよ。俺がついていますから」
見上げた先で細められた青い瞳が綺麗で、つい見惚れる。温かく穏やかな声に心が少しだけ軽くなった。
不思議だ。昨日まではなんの接点もなかったはずなのに、ハーランツさんと目が合うだけでなぜか気持ちが落ち着く。
冷静で余裕があって、なにが起きてもなんとかしてくれると信じられるような安心感があるからかしら?
「成功するおまじないをかけておきましたよ」とカモミールティーを淹れてくれた気づかいに、私は自然と笑い返した。



