麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない



 素性を知りながら守り抜く? 私の命を狙う王に、騎士として忠誠を誓っているはずのこの人が?

 君主への裏切りをいとわないハーランツさんは、一体なにが目的なの?


「取り引きとおっしゃいましたよね。等価交換なら、私はなにを差し出せば良いのですか?」

「俺が必要としたときに力を貸していただければ、それで結構です」

「ハーランツさんも言霊の魔力が目当てなんですね?」

「語弊があるな。言霊はあくまでオマケですよ。聖女様に悪事を働いてもらおうだなんて思っていません」


 こちらに有利な条件で下手に出られているのに、まったく優位に立っている気がしない。

 危ない本性を隠すようにつくろった敬語も、見る者を惑わす色っぽい微笑も、ゾクゾクするほど刺激的だ。

 そのとき、長い指にあごをすくわれた。至近距離で視線が交わる。


「嘘も建前もいらない。俺はあなたが欲しい」


 聖女としての地位でもチート級の魔力でもない、私自身を求められた気がして心が震えた。

 なぜ、彼の声はここまで体の奥深くまで響くんだろう。

 性格も思考もなにもかも、一挙一動が読めないからこんなにも気になるの?