つい、独り言が漏れた。

 忘れた頃にいつも同じ悪夢を見る。頭に流れ込んでくる光景は、生まれ育ったサハナ国とは別世界だ。

 奇妙な悪夢がリアルなせいで、ベッドから落ちた痛みがよりひどく感じる。

 予知夢の能力はないけれど、こんなに目覚めが悪い日はないわ。

 なぜか、とても嫌な予感がする。


「聖女様、起きておられますか! お目覚めなら、すぐに神殿へお越し下さい!」


 床に打ちつけた肩をさすって立ち上がると、扉の向こうからしわがれた男性の声がした。

 ドアノブをひねった先に立っていたのは、齢七十になる付き人のロウである。


「落ち着いて、ロウ。なぜそんなにも慌てているの?」

「おお、聖女様! 朝早くに申し訳ございません。至急、お伝えしなければならない知らせがございます」


 首を傾げると、ロウは青ざめた顔で素早く続けた。


「今朝、突然北の強国ヨルゴードの使者が参られて、聖女様を王妃に迎えたいとおっしゃっているんです」


 ほら、悪い予感が的中したわ。

 あの悪夢は、やはり悪いことの前触れだったみたい。