ハーランツさんは聞く耳を持たない。ただ、闇深い殺気を隠さずにザヴァヌ王を睨みつけていた。


「弟子を始末した後で、拷問にでもかけられたいか。王に忠誠を誓う円卓の騎士が君主に剣を向けるなど、重罪と知っての行動だろうな?」

「異端の俺にそんな定義を持ち出すのがお門違いだ。誰がお前に忠誠を誓う騎士だって?」


 早まらないで。弟子の裏切りが信じられずに庇おうとしただけだと言い訳をすれば、まだ命は助けてもらえるかもしれない。

 しかし、私の願いは届かず、ハーランツさんの低い声が闘技場に響き渡った。


「偽りのものさしで俺を語るな。俺はお前を殺すために騎士団に入ったんだ」


 オルデン団長が剣を抜いた。

 軽く弾いたハーランツさんは、声が出せずに倒れている私を担ぎ、青い瞳を輝かせる。

 それは息をする一瞬だった。四メートルを優に超す黒い竜が、闘技場に青い炎を吐く。

 異端の正体に度肝を抜かれた騎士達は、反撃する余裕がない。私を背に乗せて、ハーランツさんが空へ飛び立った。


「あの黒竜を捕らえろ! 聖女もろとも決して逃すな!」


 ザヴァヌ王が杖に魔力を込めて雷を落とすものの、黒竜は器用に避け、一度翼を羽ばたかせるたびに闘技場から離れていく。

 一瞬にしてヨルゴード国のお尋ね者になったふたりは、国境を越えてひたすら空を飛んだのだった。





第5章*近日公開