「貴様の罪はひとつではない。自分でわかっているはずだが?」

「なんの話でしょう。身に覚えがありません」

「とぼけるな。俺はこの目でしかと見た。時計塔に現れた白竜を聖女の力で浄化し、空へ還していく光をな」


 心臓が鈍く音を立てる。

 気づかれた。私の素性もなにもかも。外見が知られていないとか、男装しているとか、そんなものでは隠せない情報を奪われたのだ。


「とんだネズミが入り込んでいたものだ、ミティア=アルメーヌ」


 とっさに言霊の魔力で縛ろうとするが、ザヴァヌ王が杖を一振りした途端に赤い魔法陣が現れて、首輪のように喉を締め付けた。

 声を出すどころか、息ができない。


「かはっ……!」


 わずかな気道の隙間から息を漏らした瞬間、闘技場に広がっていた深紅の魔法陣が砕け散る。

 肺に空気が入り込み、地面に倒れ込んで咳をする私の視界に映ったのは、ザヴァヌ王に切先を向けたハーランツさんの背中だった。

 素早すぎて、剣を抜いた所作が目で追えない。

 会場がどよめき、側に控えていたオルデン団長とイグニス副団長も突然の展開に動けずにいる。


「なんのつもりだ、異端。剣を下げろ」