戸惑いのなか、彼は声色ひとつ変えずに薄い唇を動かす。
「おそらく、ザヴァヌ王はあなたを逃がさない。故郷に合成獣を攻め込ませ、理性を失った獣に襲われた悲劇の国として事故処理をする……さらに野蛮な手段をとるかもしれません」
「そんな! なぜ、そこまで私にこだわるんです?」
「ザヴァヌ王は、聖女という存在をひどく目障りに感じているのです。自身が神に背く行為をしている自覚があるからかもしれませんが……実際、聖女が治めていた小国を滅ぼした前科があります」
背筋に震えが走った。
噂に聞く暴君は、考えていた以上に危険な王だったらしい。聖女の力で抑えきれなかった合成獣が市街に放たれてしまったらと考えるだけで気が飛びそうだ。
「ザヴァヌ王の神に背く行為、って?」
「好奇心の詮索は身を滅ぼしますよ。闇を知れば知るほど、あなたは危険にさらされてしまいますから」
すでに目をつけられて逃げられないのよね?
喉まで出かかったセリフは、彼の放つ得体の知れない圧によって口にできなかった。
「生きているとバレたら厄介な事態になる。あなたはここで死んだことにするんです。俺と取り引きをするなら、一生守り抜くと誓います」



