これはわがままだ。
彼の幸せを願うようで、自分が傷つきたくないと願っている。私を忘れてほしくない。
サハナ国にいた頃は、自分のために何かを願うなんてあり得なかった。周りの人が幸せならそれで良かったし、多くを望まないままでいると決めていたから。
誰かを恨むこともなければ、誰かを愛する気持ちも知らなかったんだ。
「願いを聞き届けられません。私は聖女失格です」
透明な涙が頬につたい、自然と溢れて止まらない。堪えようとしても、喉が熱くてひどく痛む。
すると、長い指が涙をぬぐった。顔を上げた先に、ハーランツさんと瓜二つの青い瞳が見える。
「泣かせてしまったね。君の気持ちが聞けて良かった。意地悪な話をしてすまない」
「そんな、謝らないでください。応えられなくてごめんなさい」
「気に病むな。……そうだね。きっと、君が側にいてくれることが、息子の生きる理由になるんだ」
シルクのハンカチで顔を拭いてくれたエヴィニエ王は、穏やかに笑っていた。
「素直な気持ちを息子にも伝えてやってくれ。そろそろ目を覚ましているだろうからね。ハーランツを頼むよ、ミティアさん」



