ゆっくりと立ち上がり、スカートの汚れをはたいた。
「ご足労をおかけして申し訳ありません。私は故郷に帰らせていただきます。ハーランツさんからも、私が政治に手を出さない意思があるとザヴァヌ王にお伝えください。助けてくださって、ありがとうございました」
深くお辞儀をして立ち去ろうとしたものの、筋肉質な腕に行く手をはばまれる。
トンと木の幹に手をついた彼を見上げると、頭ひとつ分高い位置に整った顔が見えた。
漆黒の前髪から、切れ長の青い瞳が透けている。
「あの、まだなにか……?」
「このまま逃すわけないだろう。なんのためにあなたを助けたと思っているんですか」
そのセリフに、ふと違和感を覚えた。
彼は私を殺そうとしたザヴァヌ王の部下であり、罠にはめた使者と同じ騎士団に所属する男性だ。
暗殺計画を知りながら、わざわざ私を助ける行為そのものが裏切りである。
ただの優しい恩人ではない。
「なにが目的ですか?」
「恩を売るつもりも、金を受け取るつもりもありません。俺と取り引きをしませんか?」
取り引きですって?



