麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない



 ため息をついて気怠げに足を組む彼に、良い返しが思いつかず、顔を熱くして黙り込む。

 エヴィニエ王は、良くも悪くも素直で正直な人だ。

 ハーランツさんがこの場に居なくてよかったと心底思う発言にドキドキする私に、エヴィニエ王は独り言みたく続ける。


「ふむ。むしろ、番でないというなら話は早いか」


 きょとんとして見つめ返したとき、彼の形の良い薄紅の唇が予想外の言葉を紡ぐ。


「君は言霊の魔力を持った聖女なのだろう? その力で、息子の記憶を消してやってくれないか?」


 頭を硬いもので殴られたに近い衝撃に襲われた。頼みの意味を理解するのに時間がかかる。

 記憶を消す? そんな所業ができるの?


「知っていると思うが、息子はラグネ惨禍がトラウマになり、首謀者であるヨルゴード国のザヴァヌを殺そうと躍起になっている。だが、私も父親として、息子に命を無駄にしてほしくはないのだ」

「過去の記憶が消えれば復讐心も無くなって、平穏な暮らしを送れるはずだとおっしゃりたいのですか?」

「その通り。君が“過去を忘れろ”と命ずれば、騎士を辞めてラグネの里に戻り、一生を終えるだろう。もちろん、君との繋がりもなくなるわけだが、番でないというなら、さほど問題ではないはずだ」