麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない



 まっすぐ見上げたこちらの心中を察したのか、顔つきが変わった。話すのもつらい体勢なのに、絞りだす声が耳に届く。


「なにを、考えている」

「あなたのこと……それ以外にはありません」


 私の腕を掴む大きな手が、血で滑りはじめる。嫌な感触だ。


「ハーランツさん、ごめんなさい」

「なぜ謝る? やめてくれ、それ以上なにかを言ったら許さない」


 この世で誰よりも優しいあなたが怖い顔をしているのは、似合わないわ。

 嫌われても憎まれても、たとえ悲しみの中へ落とす結末になっても、生きていてくれれば、心の傷は癒えるはずだから。


「“ハーランツ、手を離しなさい”」


 言霊の魔力が放たれた。

 彼の青い瞳が揺れて、触れていた指先がこわばっていく。


「ぐ……っ、あ、ああっ……!」


 苦しそうな声に心が痛い。抗いもむなしく、彼の手から腕がずるりと抜けた。

 体にかかる重力は並でなく、思考が働く暇もないほど落下が速く感じる。

 意識が遠のく刹那、温かい魔力で体が包まれた気がしたが、天国にいく瞬間はこんな心地なのかと深く考えずに身を委ねた。