得体の知れない彼に警戒心が募った一方で、彼は相変わらず柔和な表情で楽しそうにしていた。
「自分の意思と反して行動を制限される感覚には興味があるな……ちょっと、試しに俺に魔法をかけてみてくれませんか?」
「言霊の魔力を使うつもりはありません。私は、聖女の力をいたずらに使わないと決めているのです」
ハーランツさんは「それは残念」と本当か嘘かわからないトーンで呟く。
それにしても、ザヴァヌ王が聖女の力を欲しがるあまり、強引に婚約者にして自分のものにしようとしているんだとばかり思っていたけど、見当違いだったようね。
暴君がなにを成し遂げようとしているのかはわからない。言霊の魔力を持っている私の存在が邪魔だったのかしら。
そこまで考えて、一度思考を止めた。気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした後、口を開く。
「とりあえず、婚約の話は嘘で、私がヨルゴード国に行く意味がなくなったんですよね? ザヴァヌ王がなにを危惧しているのか理解しかねますが、私は彼の妨げになるつもりはありません」



