「その服、仮面舞踏会に潜入するために用意したのですか?」
「まあ、そうとも言えるな。堅苦しくてあまり好きではないんだけど、変じゃないか?」
「とんでもない。すごく似合っています。本物の王子様みたい」
「ははっ。“王子様みたい”か。ミティアが見惚れてくれるなら、たまに着ようかな」
微笑を浮かべた彼は普段以上に麗しく、会話をするだけでそわそわしてしまう。
そのとき、懐中時計を取り出した彼が静かに続けた。
「あと一時間ほどで仮面舞踏会が終わるな。それまでに私用を済ませないと」
「私用?」
おそらく、彼のこれまでの進路から察するに、ザヴァヌ王の私室に忍び込むつもりなのだろう。
こちらへ下ろされた視線は、私を試している。
「俺を止めるか? 聖女様」
『あなたの側にいるために、聖女として正しい道に導いてみせます』
彼が悪い道へ進もうとすれば、止めると宣言した。あえて“聖女様”と呼んだのは、聖女としてのその宣言を覚えていてくれているからだ。
数秒見つめ合った後、私は一目散に駆け出す。
私室の警備を任されている先輩騎士ふたりが、塔の入り口を門番のごとく塞いでいた。
「アルティアじゃないか。東のエリアの警備はどうした?」
巡回をしているはずの私の姿に、驚いて声をかけられる。
「実は、至急伝えたい情報がありまして」
「なんだ? 言ってみろ」



