馬車を降りてはぐれた使者の安否に胸を痛めていると、ハーランツさんは表情ひとつ変えずに答える。
「彼らなら無事でしょう。今ごろ、どこかの酒場で乾杯して、任務の成功に酔いしれているかもしれません」
「乾杯? ええと、怪我なく近くの町までたどり着けているなら安心ですね」
「ははっ、今のは皮肉です。自分を殺そうとした奴らの身を案じるなんて、あなたは心根から美しい聖女なんですね」
言葉の意味がわからず、眉を寄せる。ハーランツさんは、視線を逸らさずに言い切った。
「罠にはめられたんですよ、あなたは」
「罠、というと?」
「婚約はまったくの嘘。事故に見せかけて聖女様を亡き者にすることこそ、ザヴァヌ王の真の目的です」
予想を遥かに超えた爆弾発言に開いた口がふさがらない。
私を殺すつもりで使者を寄越したの?
「ま、待ってください。理解が追いつきません」
「簡単な話です。悪天候を見越した上で使者を飛ばしたザヴァヌ王は、土砂崩れを理由にあなたを馬車に置き去りにして、合成獣を放つよう騎士に命じていました。落雷で馬が興奮して崖から転落したのは、想定外でしょうけどね」



