繋がった手に力を込める。

 目を離したら、すぐにどこかへ飛んでいってしまいそうな危うい彼を手放さないように。


「でも、言霊の魔力は使いません。ハーランツさんを信じています」


『私は、聖女の力を私欲には使いません。それに、ハーランツさんには……ハーランツさんにだけは、今後なにがあっても言霊の魔力で縛りたくないんです』


 以前告げた通りだ。唯一の味方である彼とは、いつまでも対等な関係でいたい。

 ハーランツさんは困った顔をしていた。「いっそ、魔力で縛ってくれた方が楽なのに」と、つぶやいている。

 頭ひとつぶん高い位置にある彼の顔が、目の前に迫った。


「その宣言、あまり効果がないかもしれないな」

「どういう意味です?」

「俺はそもそも、言霊の魔力に逆らえないとか、そういう次元の話じゃない」


 きょとんと目を丸くする私に、彼は愛しげにこちらを見つめて苦笑している。


「俺は言霊の魔力が宿った命令がなくても、あなたの“おねだり”で、なんでも言うことを聞いてしまう男だから」