麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない

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 温かな日の光を感じてまぶたをあげると、隣にハーランツさんはいなかった。

 布団に温もりはなく、宣言通り、私が眠りについてすぐに部屋を後にしたらしい。

 乾かした服が畳まれていたため、身なりを整えて別館を出る。

 ひんやりとした風に肌寒さを感じたそのとき、灯籠が並ぶ庭にたたずむ黒いトレンチコートの彼が見えた。

 白い息を吐いて空を見上げる姿は綺麗で、どことなく儚い。

 私に気づいたようで、青い目が細まる。


「おはよう。よく眠れたか」

「はい。お待たせしてしまうほど、ぐっすり眠ってしまいました」

「それなら良かった。気にしないでいい。俺もさっき起きたところだ」


 昨日のやりとりは夢ではなかったんだ。

 自然に振る舞ってくれるようになったハーランツさんに思わず頬が緩む。こちらの心中を察したのか、彼も気の抜けた表情を浮かべる。

 肩にトレンチコートをかけられて視線を上げると、苦笑した彼が口を開いた。


「ひとつ、残念なお知らせがある」

「残念? なんでしょう?」

「長老の話によれば、今日は平日だから、この地域から始発は運行しないらしい」