そういえば、合成獣に襲われて馬車が谷へ落ちた日、気を失う間際に大きな黒い翼が窓の外に見えた気がする。
あれは、竜に変化をしたハーランツさんだったんだ。
私が切り落とした髪を青い炎で燃やしていたし、全ては竜人族の力であったのだと察する。
そのとき、あごの下に一枚だけ逆さに生えたウロコを見つけた。近くに寄らないとわからないけれど、この距離なら正確な位置がわかる。
しかし、好奇心で伸ばした手を素早く握られてしまう。
「こら」
「あっ、すみません」
「……そこ、弱いんだ。触られたら噛み付いてしまう」
「き、気をつけます」
これが噂の逆鱗? 辰にのみあると思っていたけど、竜にも存在したのね。
手を握ったまま、ハーランツさんは静かにささやく。
「夜がふける前に寝たほうがいい。ミティアが眠るまで、ここにいるから」
穏やかな声が子守唄みたいに体に染み渡った。
心地よい体温に包まれて、私はいつのまにか意識を手放したのだった。



