思わず頬を手で覆って体温を確かめる私に、黒髪の彼は口角を上げる。
「心配ならさずとも、ここはあの世ではありません。馬車が墜落する前に、上手く捕まえましたから」
よく考えれば、とんでもない高所から馬車ごと転がり落ちたのに無傷であるはずがない。
気づけば、共に崖から落下した馬も近くの日陰に休ませてある。怪我はない様子で、元気に鼻を鳴らしながら、たてがみを揺らしていた。
「あなたが助けてくれたのですか? 一体どうやって?」
彼は、その問いかけに答えなかった。ただ微笑を浮かべたまま、腕の中におさまるこちらを見下ろしている。
この人は、とんでもない実力の魔法使いなの?
「俺は魔法使いではありません。どこにでもいる一介の騎士ですよ」
心を読まれた。そんなにわかりやすかったかしら。
彼の言葉通り、紋章が胸に刻まれた騎士団の制服が目に入る。上腕には腕章がついており、ダイヤモンドが埋め込まれていた。



