こんな場所に人が住んでいるなんて。地図にも載っていないわ。
次の瞬間、霧の向こうに大きなシルエットが現れた。
身長を優に超す胴体は硬いウロコに覆われていて、大きな翼と鋭い爪が視界に飛び込む。
「きゃっ!?」
つい、悲鳴をあげて震え上がる。
白い竜だ。力強い牙と爪を持ったドラゴンが、こちらを睨みつけている。
殺される!
圧倒的な力の前に本能が危険信号を鳴らしたところで、突然、竜が動きを止めた。
まばたきをする間、みるみるうちに身体が小さくなっていく。
「ああっ、ハーランツ様ではありませんか! よくお戻りになられました!」
私は夢を見ているの?
さっきまで怖い竜だったはずが、二十代くらいの若い男性に早変わりしている。肌触りの良さそうな民族衣装をまとう姿は、紛れもなく人間だ。
混乱している私をよそに、ハーランツさんはにこやかに答える。
「急に立ち寄ってすまない。雨に降られてしまって、帰る手段がないんだ。一晩だけ寝床を借りてもいいか」
「なにをおっしゃいますか! ハーランツ様が帰ってきてくださったら、里のみんなも大喜びですよ……って、びしょ濡れじゃあないですか」
「はは。悪いが、着替えも用意してもらえるか?」



