「少し歩けますか」
大きな手に、冷たい指を握られた。
「ひとつだけ、宿のアテがあります」
「本当ですか!」
「はい。……聖女様を連れて行くと、少々騒ぎになりそうですがね」
言葉の意味は察せなかったが、寝床を確保するためにはわがままを言っていられない。
たくましい腕に導かれるままに森を進んだ。
どれくらい歩いただろうか。帰り道もわからなくなるほど入り組んだ獣道には、いつのまにか雨が止んで霧が濃く立ち込め始める。
きょろきょろと辺りを見回した。
「太陽も月も見えませんね。方角の指針がなければ、自分の居場所がわからなくなりそうです」
「この辺りは、あえて道に迷いやすくなっているんです。部外者を拒む隠れ里ですから」
「隠れ里?」
そのとき、ハーランツさんが立ち止まった。
視線の先に、丸太で作られた柵と門が見える。霧に包まれた小さな集落は切り立った崖に囲まれており、世界から切り離された不思議な空間だ。



