「“止まりなさい”!」
言霊が波紋のように広がると同時に、合成獣の動きが停止した。
「“おとなしく住処へ戻りなさい”!」
その場の空気が一瞬にして静まり返る。
ギラギラと目を輝かせていた合成獣は、戦意を喪失して背を向けて去っていった。
よかった。合成獣にも言霊の魔力は効くんだわ。
しかし、安心したのは束の間。頭上を覆っていた黒い雲から稲妻が落ち、雷鳴がとどろいた。
視界が閃光につつまれ、至近距離で花火が爆発したくらいの衝撃である。
まずい!
気づいた頃には馬がいななき、馬車は大きく傾いていた。
どしゃ降りでぬかるんだ地面に足を取られ、馬車は崖下に吸い込まれるように落ちていく。
「きゃあっ!」
体にかかる重力は並ではない。背中を強く車内の壁に打ち付けられ、意識がふっと遠のいた。
あぁ、もうダメかもしれない。
不慮の事故で私の一生は終わるんだ。
目の前が真っ暗になる間際。視界の端に大きな黒い翼が映った気がした。



