正体を知られてから、イグニス副団長は周りに吹聴せずに傍観者を決め込んでおり、むしろ、こんな美味しいネタを逃してたまるかと言わんばかりに楽しんでいるのだ。

 理解者になってくれたのは良いが、毎回顔を見かけるたびに絡まれるのは厄介である。

 ハーランツさん自身の態度は今までとあまり変わりなく、柔和なポーカーフェイスのままだった。

 朝から晩まで忙しそうにしていて、自室でも難しい本や書類に目を通している。机に置かれたメモには複数の国の言語が羅列しており、全てを読み解いて仕事にあたる彼の頭の構造が不思議だ。

 私が話しかけたときは必ず手を止めて聞いてくれるし、不満や疲れを表に出さない。常人をはるかに超えるスピードで仕事を終わらせているスペックの高さは、良い意味で異端と呼ばれるに相応しい働きだった。


 午前の訓練後に寮の部屋に戻ると、机の上に分厚い本が何冊も積み上がっている。

 また仕事を持ち帰ってきたんだわ。ハーランツさんは、休む暇があるのかしら?