「椎名先輩、ご卒業おめでとうございます」


「おう」



左胸のコサージュ。

そんなものが似合わないゴミ捨て場前。



「専門学校、美容師がんばってください」


「いつかお前の髪も切ってやるわ」


「大丈夫です。お姉さんのほうが上手だと思うんで」



こいつの皮肉染みた義務的な返しにはとっくに慣れたが、ふとした瞬間に柔らかい表情に変わってくれる。

そんなものを任務報告のように周へと知らせる俺の保護者的な日課も、今日でやっとおさらば出来るらしい。



「…周は大学で心理学を学ぶんだってよ」


「……心理…学」


「あと詳しいことは自分で聞けよ」


「…返信、こないですよ」



周、この町の大学だから戻ってくるらしい。

……とは秘密にしておく。


どうせあいつもサプライズで驚かせたいだろうし、俺だって後輩のお世話はもうダルい。



「んじゃ、2年からも頑張れよ。いじめるんだろ後輩を」


「はい」



周の奴、まじでろくなこと教えてねぇな。

どうせ俺とこいつはこれからも美容室で顔を合わせるだろうし、連絡先だって持ってる。