『───…彩』



あの日、体育祭の日。

先輩は泣きそうな声でその名前を呼んでいた。


「あや」って名前の生徒はわたしが知る限り1年には居ないから、先輩のクラスの3年生なのかもしれない。


けど、聞いたことないくらい優しくて切ない声で呼んでたから。

その人のこと、すっごく好きなんだろうなってことくらい分かる。



「ほら涼夏!なにボサッとしてるの!お肉、お母さんが食べちゃうわよ?」


「…わたしは安いほう食べてるからいい」



お客さんである先輩に高いものをあげるべきだ。

それと、お母さん。

いつもパート頑張ってくれてるから、たまには美味しいものを食べてほしい。



「遠慮しなくていいのに。はい、どーぞ」



わたしの取り皿へ、菜箸を手にした先輩がキラキラ輝く光沢を出すお肉をよそった。

小さくお礼を言って箸を付けるわたしをじっと見つめる……ふたり。



「……なに。」


「ふふっ、照れてるのねぇ涼夏」


「…そんなことないけど」


「照れるとね、この子口が若干尖るのよ」