ううん、大丈夫じゃなかったよお母さん。

だから言いたくなかったの。

わたしはアンカー、そしてビリ。
どろっどろのひっどい姿で走ってた。


そんなこと言えないから言わなかったのに。



「…1位でした、涼夏も」



先輩は、微笑んで言った。


そんな嘘を言ったって仕方がないのに、わたしは鍋に揺れる野菜やお肉をじっと見つめて黙ってることに。



「えぇ!本当に!?よかったわぁ。涼夏は確かに昔から足だけは速かったのよ~」


「周りは3年ばかりだったのに余裕で抜かしちゃって。すごかったですよ」


「ふふ、よく見てくれてありがとうね~」



そんなの嘘なのに。

お母さんもすぐ信じちゃうんだから。



「ねぇねぇ、高槻くんは彼女さんとかいるの~?」


「…いえ、俺はいません」


「あら!こんなに格好いいのに勿体ない!」



お母さん、ふつう彼女が居たらここに来ないでしょ…。

ちょっとズレてるとこあるんだよね…。


それでも、先輩にはたぶん好きな人がいるのは確かで。