「え……?」



 ぞっとするほど冷たい声だ。まるで日野くんが日野くんじゃないみたいな。姿形だけ同じで、まるきり別人のように思えた。



「な、なにしてるの……?」



「……なにって、ねえ」



 恐る恐る問いかけると、日野くんはこちらに同意を求めるように鼻で笑った。そして溜息を吐いてぐっと鼻先近くまで私に顔を近づけてくる。



「教えてよ五十嵐さん、俺の何が駄目? 今まで俺の我儘散々聞いてくれたじゃん。家とか来て、夕飯作りに来てくれたし。弁当だって毎日作ってくれてる。どうでもいい相手にそんなこと出来るの? 本当は俺の事好きになってくれたんじゃないの? 俺はどうすればいいの? 顔だって、性格だって、何もかも五十嵐さんの好きに変えるから教えてよ」



 いや、全部好きだ。初めは、食べてるところだけだったけど、今は全部が好きだ。



 でもそんなこと言えないし、気持ち悪がられてしまうわけで。酷い裏切りになって彼はきっとご飯がまともに食べられなくなってしまう。



「五十嵐さん、どうして俺を好きになってくれないの……」



 ぽたりと、私の頬に水滴が落ちてきた。滴は重力に沿うように私の頬を伝っていく。私は別に今泣いていない。けれど上から、日野くんからぽたぽたと滴が落ちてくる。