「なあ、天音。ちょっと聞いてほしい事があるんだ」

「どうしたの……?」


さっきまで、学校の面白い先生の話や昨日見たテレビの内容を話していただけに、急に改まった表情で前置きをしてきた慧くんに小首を傾げながらも、静かに耳を傾ける。


「前にも話したと思うけど、俺が高校に入ってから両親は俺に一切関心を持たなくなって、仕事で家を空けることが多くなったんだ。
っていうか、ほとんど帰ってこない。

兄貴も下宿してるし、広い家に1人でいるのは寂しくてさ。

こうやって天音といる時間が、寂しさを忘れられる唯一の楽しみなんだよ。
できれば帰りたくないな、なんて思ったりしてる」


「そう……だったんだ、」


慧くんが今抱えているだろう気持ちを想像して、ぎゅっと胸が締め付けられた。


こういう時、どんな顔をするのが正解なのか。

上手く表情を取り繕えないや。

きっと、ひどく情けない顔をしてる。