虐げられ幼女は、神子だろうと聖騎士パパ&もふもふお兄ちゃんたちと平凡に生きたい

 ギリギリのところを保っていた心がついに折れてしまう。

 せめて痛みがないよう目を閉じたアルトリシアだが、不意に胸の辺りに熱を感じ、握り込んでいた塊を放り出した。

 なにごとなのか理解する前に、もう一匹別の獣が目の前に現れる。

 それは蒼い狼だった。この暗闇の中でも、美しい青銀の毛並みだとわかる。通常、狼と呼ぶ獣よりひと回りもふた回りも大きく、この獣が単なる狼ではなく魔獣なのだと示していた。

 二匹が向き合って睨み合い、やがて白い魔獣が吠える。

 その瞬間、蒼い狼が素早く飛び掛かった。まるでアルトリシアを守るかのように。

(な、に……?)