そして、心を奪われた。

所謂、一目惚れというやつだ。



こんなにも高ぶる気持ちも、胸の高鳴りも初めてで。

自分に反論してきたり、上から物を言ってくる女性も、初めて。

どついたり、小突かれたり。しまいには額をペチンと叩いてツッコミされるのも、初めて。

何もかも初めてで、新鮮で。

瞬く間に恋に落ちてしまったとのこと。

……そりゃ、そうでしょうよ。天下の天王様を小突いたり、額を叩くなど、この世界に住まう令嬢は誰もできませんけど。不敬です。

天王様は、殿方の後ろを黙って歩く大人しい令嬢よりも、堂々と先陣切って歩いてしまうような、気の強い女性の方がお好みのようだった。



そして、ある日。

聖威は、突然目の前から姿を消した。



慌てて探しているうちに、その経過を知る。

侍女長に逢瀬を目撃されて、水蘭様とのご婚約の妨げになると警告されて追い出されたとか。

『天王様を誘惑する女狐は、私が追い出してやりました!』

自信満々にそう騙る侍女長に、今までにないぐらい憤慨してしまったとか。