証言台にいた弥勒様がそう叫びながら飛び出して、韋駄天様のもとに駆け寄る。

手早い指示で、韋駄天様は衛兵や士黄様、弥勒様と共に、あっという間に大広間から運び出されていった。

「ち、父上!父上ぇっ!」

混乱しかけながらではあるが、取り敢えず大好きな父上の後を追って、朝霧様も大広間から立ち去ってしまう。

「韋駄天様!あぁっ!」

その後を、韋駄天様の側近らも追い掛ける。更に芙蓉様が慌てて追って行った。赤いドレスをフワフワさせて。裾を踏んでコケそうになりながらも。



「……」



嵐が過ぎ去ったかのように、大広間は沈黙してしまった。

静かになったその中で、翼は何故か「フーゥッ!」と声を発していた。

どんな意味?



「……おやおや?立ち去ってはしまいましたが。本物の韋駄天様、現れちゃいましたねぇ?」



立ち去った後の閉まった扉をしばらく見つめていた竜樹様だったが、フッと鼻で笑ったのち、ゆっくりと向き直る。



「何故、韋駄天様が二人いらっしゃる?どっちが本物か?……この流れから、言うまでもありませんよね?」