「……舞空、こっちだ!」



闘技場の裏を走り続けて、聖威が指を差した方向とは、これまた人気のない、木々が生い茂る森の中だった。

指示に従って、私も後を追う。

「木の陰に転移陣張って逃げるよ!」

「うん!」

そうして闘技場から離れて、私らは森の中へと足を向けた。



ーーーその時だった。



「……聖威!!」



男性の声に、思わず足を停めさせられる。

名前を呼ばれた聖威も、呼ばれてない私もつられて共に。



そして、反射で振り返ったその先にいた御方を見て……驚愕したのは、言うまでもなかった。

彼は、蜂蜜色の髪を揺らしながら、鬼気迫るような必死の表情で、こっちに向かって走ってくる。

闘技場の来賓席で試合を観覧していた時の、あの穏やかな笑顔ではなかった。



天帝・帝釈天様の長子。

天竜八部衆を率いる、天王様だ。



「待ってくれ!……聖威っ!!」



……というか、何故この御方が目の前に現れるのか。

何故、聖威を呼び止めるのか。

疑問が重なり思わず聖威の顔を見るが……名前を呼ばれた聖威本人も、驚きのあまり目を見開いて固まっていた。




「……狼毅っ」