お手洗い所から出てきたのは……なんと、今大会を騒がせた、あの姫君。夜叉の羅沙姫だったのだ。

姫は一人のようだ。周りに人がいない。

いるのは建物の陰に隠れている韋駄天様と、それを木の陰から注視している私たちだけ。

そして……動いたのは、韋駄天様だった。

建物の陰から姿を現し、羅沙姫の前に出る。



「こんにちは、姫」

「ひゃっ!……あ、こ、こんにちは」



突然話しかけられて、姫はビックリした声をあげるも、相手をじっと確認しながら、拙く頭を下げていた。

姫に話しかけた韋駄天様は、笑みを浮かべている。

その笑みは、とても不自然で違和感全開だった。いつもの韋駄天様の笑い方じゃない。いつもならこう「はっはっはっ!」なんて豪快にくるところだ。

やっぱり……あれは、韋駄天様じゃない。わかる。ニセモノだ。



しかし、何故わざわざ後をつけるような真似までして、韋駄天様……いや、特級犯罪人・架威は、羅沙姫と接触しているのか。

疑問に思って聖威の方を見るが……聖威は、その光景を眉を顰めて見ており、険しい表情となっていた。