「そんなことはさせませんよ。僕にとって君は弟のような存在です。弟を守るのは兄の役目ですから」
心の底からそう思っているのか、詠介は純粋な目を向ける。
対する葵は頬を朱に染め、早口で言い募る。
「……あなたがそうだから、俺が心配する羽目になるんです」
「そうですか? 僕たちは似たもの同士だと思ったのですが。絃乃さんを守るという点において」
「え?」
ここで自分の話題になると思っていなかった絃乃は、ぱちぱちと目を瞬く。
詠介は笑みを深くし、葵は苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。二人のそれぞれの反応に困惑していると、詠介が口を開く。
「実の姉である絃乃さんが幸せになるために、行動をしていたんですよね。遠いところから見守る道を選んで、彼女に危険が及ばないように」
「……それは……」
「大丈夫です。もう杞憂していた心配事はなくなりました。君は堂々と実家に戻れるんですから。本当によくここまで頑張ってきましたね」
頭をぽんぽんと撫でられ、葵はなんとも言えない顔をした。喜ぶ姿を姉に見られたくないのか、ぶっきらぼうに顔を背ける。
「あとは二人の好きにしてください。僕は帰ります」
そう宣言するや、出口のほうに走り去っていく。案外、これ以上、持ち上げられることに耐えきれなくなったのかもしれない。
我が弟ながら初々しい反応に、絃乃もまんざらでない顔で見送る。
飛び石の先にいた詠介は、絃乃に手を差し出しながら、いつになく真剣味を帯びた顔を向けた。
「僕は……華族令嬢の相手として、お世辞にもふさわしい身分ではありません。ですが、僕はあなたとともに生きたいと思います。それでもいいと仰ってくださるなら、お嬢様の隣にいる権利を与えていただけますか」
躊躇なく注がれる眼差しとその言葉は、彼らしい。他の誰でもない、自分が選んだのは間違いなくこの人だ。
彼の誠意に応えるべく、絃乃は唇をきゅっと引き締めた。
「……もちろんです。どうか、私を詠介さんのそばに置いてください」
一音一音を、心を込めて言の葉を紡ぐ。
頬を優しく撫でる風にあおられ、地面にかき集められていた枯れ葉が一斉に空に舞う。くるくると踊るように回り、雪化粧した椿の葉がさわさわと揺れる。
――好きな人と結ばれる。
前世では当たり前だったことが、今世ではとても難しいことで。
何度も諦めなければと思っていたが、もうそんな必要はない。自分の気持ちに嘘をつかなくていいのだ。
「もう、これが夢でもいいです」
「……夢じゃないですよ。ここは間違いなく現世です」
詠介は絃乃の両手を取って、自分の手のひらで包み込む。
お互いの体温がじんわりと伝わり、緊張の糸がゆるゆると解けていく。安心感に、引き結んでいた口元をゆるめる。
乙女ゲームのシナリオからは離れた未来だけれど、これが自分たちの現実だ。
そして、君と紡いでいこう。永久の約束を。
心の底からそう思っているのか、詠介は純粋な目を向ける。
対する葵は頬を朱に染め、早口で言い募る。
「……あなたがそうだから、俺が心配する羽目になるんです」
「そうですか? 僕たちは似たもの同士だと思ったのですが。絃乃さんを守るという点において」
「え?」
ここで自分の話題になると思っていなかった絃乃は、ぱちぱちと目を瞬く。
詠介は笑みを深くし、葵は苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。二人のそれぞれの反応に困惑していると、詠介が口を開く。
「実の姉である絃乃さんが幸せになるために、行動をしていたんですよね。遠いところから見守る道を選んで、彼女に危険が及ばないように」
「……それは……」
「大丈夫です。もう杞憂していた心配事はなくなりました。君は堂々と実家に戻れるんですから。本当によくここまで頑張ってきましたね」
頭をぽんぽんと撫でられ、葵はなんとも言えない顔をした。喜ぶ姿を姉に見られたくないのか、ぶっきらぼうに顔を背ける。
「あとは二人の好きにしてください。僕は帰ります」
そう宣言するや、出口のほうに走り去っていく。案外、これ以上、持ち上げられることに耐えきれなくなったのかもしれない。
我が弟ながら初々しい反応に、絃乃もまんざらでない顔で見送る。
飛び石の先にいた詠介は、絃乃に手を差し出しながら、いつになく真剣味を帯びた顔を向けた。
「僕は……華族令嬢の相手として、お世辞にもふさわしい身分ではありません。ですが、僕はあなたとともに生きたいと思います。それでもいいと仰ってくださるなら、お嬢様の隣にいる権利を与えていただけますか」
躊躇なく注がれる眼差しとその言葉は、彼らしい。他の誰でもない、自分が選んだのは間違いなくこの人だ。
彼の誠意に応えるべく、絃乃は唇をきゅっと引き締めた。
「……もちろんです。どうか、私を詠介さんのそばに置いてください」
一音一音を、心を込めて言の葉を紡ぐ。
頬を優しく撫でる風にあおられ、地面にかき集められていた枯れ葉が一斉に空に舞う。くるくると踊るように回り、雪化粧した椿の葉がさわさわと揺れる。
――好きな人と結ばれる。
前世では当たり前だったことが、今世ではとても難しいことで。
何度も諦めなければと思っていたが、もうそんな必要はない。自分の気持ちに嘘をつかなくていいのだ。
「もう、これが夢でもいいです」
「……夢じゃないですよ。ここは間違いなく現世です」
詠介は絃乃の両手を取って、自分の手のひらで包み込む。
お互いの体温がじんわりと伝わり、緊張の糸がゆるゆると解けていく。安心感に、引き結んでいた口元をゆるめる。
乙女ゲームのシナリオからは離れた未来だけれど、これが自分たちの現実だ。
そして、君と紡いでいこう。永久の約束を。



