乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 彼は無言のままに戻ってきたかと思えば、静かに襖を閉めた。そして大きなため息のあとに、やっと口を開く。

「……なんだよ。姉さんに不都合になることしてないだろ」
「そうじゃなくて! いきなり驚かせないで。いやあの、最大限に感謝しているけどっ!」

 なかなか振り向いてくれない弟に耐えかね、つい声を荒らげる。

(しまった。間違えた)

 お礼を言いたいだけなのに。こんな喧嘩口調では伝わるものも伝わらない。
 反省していると、前方を歩いていた彼の足がふと止まる。

「じゃあ、何」

 面倒くさそうに視線が投げられる。姉としての威厳を無視され、絃乃は打ちひしがれる。

「うう。久しぶりに会った弟が冷たい……」
「あーはいはい。冷たくて悪かったな」
「肯定してほしいわけじゃない……」

 しゅんと落ち込むと、焦ったように言葉が飛んでくる。

「俺は昔からこうだろ。姉さんだって、見た目は変わったけど、中身はそんなに変わってないだろ」
「まあ、そうなんだけど……」

 目の前には、ぶっきらぼうな弟がいる。
 長らく行方不明だった彼の帰るべき場所は、この白椿家だ。
 もう離れて暮らす必要なんてない。これからはずっと近くにいられるのだから。声をひそめて名前を呼ぶ必要もないし、前世の思い出話だってできるのだ。
 これからのことを思うと、自然と胸が弾んだ。

「まずは……おかえりなさいっ」
「どわっ! 子供じゃないんだから、不用意に抱きつくなよ!」
「だって嬉しいんだもん。転生しても弟と再会できて、また家族になれたんだから」
「あーそうかよ」

 葵は赤らめた頬をふいっと背ける。そして、抱きついてきた姉をはがす。

(確かに抱きつく年齢じゃなかったかも……)

 年甲斐もなく、はしゃいでしまったことを反省し、話題を変える。

「そういえば、どうして転生したの? 病死? 他殺?」
「なんで物騒なものが候補にあがるんだよ……。言っとくけど、俺は恨みなんて買ってないからな」
「でも、こんな偶然……そうそうあるわけないじゃない」

 葵は口を歪め、言いたくなさそうに明後日の方向を見やる。

「姉さんが倒れてすぐ、交通事故に遭っただけだよ」
「え、とんだ親不孝者じゃない」
「お互い様だろ」
「……それもそうね。今世では親孝行、しっかりしようね。前世の分まで!」
「おう」

 そっぽを向いていた葵がやっと目を合わせ、神妙に頷く。
 前世の弟らしい一面を見つけ、嬉しくなる。