乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

「……そのお考えは、どうあっても変わりませんか」
「当然だ。何のために女学校に行かせ、今まで大事に育ててきたと思っている?」

 凍てつくような視線にも動じず、葵は鷹揚に頷く。

「道理ですね。では、話を変えましょうか。……家の事情で想いを遂げられない恋人たちが、追い詰められたときの選択は主にふたつです。外国へ逃げるか、一緒に現世の鎖から解き放たれるか……まあ、平たく言うと心中ですね」

 それは悲恋の行く末としてよくある未来だ。
 外国への逃亡か、悲劇の結末か。二つに一つの選択肢に、父親の顔にも焦りが浮かぶ。

「何だと?」
「手塩にかけて育てた娘の命。父上にとって、どれほどの価値がありますか? 思いつめて自らの命を絶つ選択を与えてしまったこと、後悔したところで生き返りませんよ」
「……む、……ううむ」

 腕を組んで悩む様子に、葵は追撃の手をゆるめない。
 今度は優しく諭すような口調で、未来の可能性を示唆する。

「結婚を認めてくだされば、姉は元気に過ごせ、はたまた孫の顔も見られるかもしれません。よく考えてください。一族は俺のことを任せ、姉には幸せを約束してください」
「……ひとつ尋ねたいのだが、どうしてそこまでする?」
「姉の恋人には一生かかっても返せない恩があるのです。ただそれだけです」

 素っ気なく答える息子を見て、父親の視線が横に移る。

「……絃乃。葵の言葉はすべて真のものか?」

 どことなく疲れきったような声に、絃乃は少し考えて、首を縦に振る。

「はい。……偽りはございません」
「その恋人というのは、一体誰のことなのだ?」
「え、ええと。佐々波呉服屋の次男、詠介さんです」

 たどたどしく答えると、先に反応したのは母親のほうだった。
 頬に手を当て、小首を傾げる。

「あら? その名前は、最近出入りしている呉服屋と同じね」
「なに、そうなのか。……ふむ」

 顎をさすっていた当主は何かを決意したように膝を打った。

「葵よ。しばらく見ない間に逞しく育ったものだ。これなら白椿家のことも任せられる。……お前の条件を飲もう」
「では、姉が自由に結婚しても構いませんね?」
「……ああ。好きに致せ。子供に先立たれるのは、親としてこの上なく辛い」
「ありがとうございます。今この瞬間から、白椿家のために尽くすことを誓います」

 曉久が鷹揚と頷くのを見て、ふわふわとした気持ちのまま部屋を辞する。 
 廊下を進み、彼が自分の部屋に入っていくのを見て、絃乃も慌ててその背を追う。

「ちょ、ちょっと。葵ってば!」