乙女ゲームに転生した華族令嬢は没落を回避し、サポートキャラを攻略したい!

 白椿家の奥座敷。松と雉が描かれた襖の向こうには、当主を含め、家族四人が数年ぶりに集まっていた。
 下座で正座している葵が拳を握りしめて座っている。その緊張が隣で座っている絃乃にも伝わってきて、自然と背筋を伸ばす。
 記憶喪失の原因となった怪盗鬼火が捕まったことで、葵も記憶が戻ったことを詠介に伝え、こうして実家に戻ってきた。
 実家に戻った葵は、行方不明になった経緯とこれまでの生活について報告を終えると、大事な話があります、と神妙な顔で言い、場所を移して話すことになったのだ。「話とは一体何なのだ?」

 その声は張り詰めたもので、期待と不安がない交ぜになっていた。
 一方の葵はふっと息を吐き出して肩の力を抜き、質問に質問を返す。

「復籍したら、俺が跡取りということになるんですよね?」
「そうですよ。あなたはもともと、白椿家の息子なのだから当然ではありませんか」

 父親の横で母親が頷くと、葵は真摯な目を当主に向ける。

「でしたら、それを踏まえたうえで、父上にお願いがあります」
「……なんだ。申してみよ」
「姉の結婚相手を決める権限を私にお与えください」

 驚きのあまり、誰もが息をのむ。三人のそれぞれの訝しむ視線を受けた葵は態度を崩さず、沈黙を守っている。
 緊張の糸を破ったのは、一層低い当主の声。

「それは何を言っているのか、わかったうえでの発言なのだろうな?」
「もちろんです」

 母と娘は目を見合わせた。
 お互いの顔には、なんて無茶な、と書かれていた。
 華族の結婚は華族同士という例も少なくない。そして、その結婚に口出しができるのは家長である父親のみ。それに楯突くということがどれだけ非常識か、聡明な葵がわからないはずがない。
 父親は頭が痛いとでもいうように、眉間をもみほぐしながら眼光を鋭くした。

「娘の結婚は家長たる私の意志で決める。しかも、華族の娘の婚姻だ。庶民の娘の話ではない。だというのに、一族の大事な決断を委ねろとは甚だ話にならん」
「姉にはすでに恋い慕う相手がおります。彼は華族の縁組みにはほど遠い身分ですが、誰よりも信頼して任せられる男です」
「くどいな。こんな馬鹿げた話、承知できるわけがない。女に生まれたからには、黙って従うのが務めだ。それがたとえ、好いた男でなくともな」

 恋愛結婚なんてのは夢のおとぎ話だ。すでに結納を済ませて、卒業と同時に輿入りすることが決まっている級友も珍しくない。

(一体、どういうつもりなの……?)

 葵の横顔からは感情が読めず、一層不安を駆り立てる。